東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)100号 判決
原告 永井清治
被告 神奈川県選挙管理委員会
〔抄 録〕
本件選挙の立候補者が原告と小山田兵衛の両名のみであること、小山田候補が共ケ岡投票所から三〇〇メートル以内に所在する建物に選挙事務所を設置していたこと、選挙当日被告及び市委員会が右選挙事務所につき閉鎖命令を発しなかったことは、いずれも、被告の自認するところである。
ところで、法一三四条が選挙当日投票所の入口から三〇〇メートル以内の区域に設置された選挙事務所は選挙管理委員会において閉鎖を命じなければならない旨を規定しているのは、選挙当日における投票所の静ひつを確保するとともに、選挙人に対し投票所と至近の場所に選挙事務所を設置した特定の候補者に有利な影響の生じないよう配慮し、もって選挙の公正を確保せんとする趣旨に出たものであるから、選挙管理委員会が本条に従って閉鎖を命ずべき場合にそれを命じなかったときは、法二〇五条一項にいう「選挙の規定」に違反するものというべきであろう。しかし、或る事項が選挙無効の原因となるためには、単にそれが選挙の規定に違反するというだけでは足らず、さらに、それが「選挙の結果に異動を及ぼす虞れがある場合」でなければならない(同条項)。そして、ここにいう「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」とは、選挙の結果に異動を及ぼす可能性が考え得られるばかりでなく、経験則上その蓋然性があることを要するものと解すべきであるところ、事務所閉鎖命令違反のごときは、原則として、それが選挙人の心理に及ぼす影響は、極めて軽微であるから、反対の事情がない限り、選挙の結果に異動を及ぼす虞れはないものと解するのが相当である。ところで、本件に現われた全証拠をもってしても、右の反対の事情を認めるに至らないのみならず、かえって、証人大塚淳夫、小山田兵衛の証言によれば、本件選挙の当日は、雨天であり、小山田候補の選挙事務所への人の出入りは少なく、また、右選挙事務所と共ケ岡投票所との間は東名高速道路で分断されており、該事務所の前を通って右投票所へ行く人は殆んどない状況であったことが認められ、また、本件選挙の結果は、当選人小山田兵衛が一三、八九八票、次点者原告が五、五七五票であり、投票総数は一九、九六二票で、うち有効投票が一九、四七三票、無効投票が四八九票で、法九五条一項四号の法定得票数は四、八六八・二五票であること、及び共ケ岡投票所区域内の選挙当日の有権者数は一、二八〇名で、うち当日投票した選挙人は五九七名であることは、いずれも、原告において明らかに争わないところであるから、原告主張のごとく小山田候補の選挙事務所が選挙当日使用されていたとしても、その閉鎖を命じなかったという違法は、本件選挙の結果に異動を及ぼすものでないこと明白である。
(渡部 蕪山 浅香)